フロロシリコーンゴム(FVMQ)とは?化学構造と通常のシリコーンゴム(VMQ)との違い

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フロロシリコーンゴム(FVMQ)は、シリコーンゴム(VMQ:ビニルメチルシリコーンゴム)の側鎖にフッ素化アルキル基を導入したエラストマーです。メチルトリフルオロプロピルシロキサンを主成分とし、架橋用に少量のメチルビニルシロキサンを共重合したポリマー構造を持ちます。この化学構造の違いにより、FVMQはVMQの特性(広い温度範囲で柔軟、高い耐候性など)に加えて耐油性・耐燃料性を大幅に向上させています。一方で、機械的強度の低さ(引張強度・耐摩耗性の弱さ)といったVMQの弱点はFVMQでも基本的に残っています。

フロロシリコーンゴムは、VMQの弱点である油や燃料への耐性を高める目的で開発されたもので、通常のシリコーンでは膨潤・劣化してしまうエンジンオイルやガソリン等にも耐えるよう設計されています。初の商用フロロシリコーンゴムは1950年代に米国ダウコーニング社が「Silastic LS-53」として発表しており、シリコーンの耐熱・耐寒性能にフッ素ゴムの耐薬品性を組み合わせた素材として誕生しました。

主な物理的・化学的特徴

広い使用温度範囲

フロロシリコーンゴムは低温から高温まで広範囲で性能を維持でき、一般に約-50℃~+200℃で使用可能です。低温側のしなやかさはシリコーンゴム譲りで、極低温下でも弾性を保ちます(-55~-70℃付近まで用途に応じ可)。高温側も約200℃まで連続使用でき、一時的にはそれ以上の温度にも耐えます。

純粋なVMQと比較すると、FVMQは若干高温での安定性が劣るケースもありますが、その差は小さく実用上ほぼ同等です。なお電気特性も良好で絶縁性が高く(体積抵抗率10^10~10^14 Ω·cm程度)、広い温度で安定しています。

優れた耐油・耐燃料性

FVMQ最大の特徴は各種オイルや燃料に対する耐性です。エンジンオイル、ガソリン、軽油などによる膨潤が著しく低く抑えられ、従来のVMQでは実用困難だった自動車燃料環境下でも使用できます。その耐油・耐燃料性能はフッ素ゴム(FKM)に匹敵するレベルと評され、実際にエンジン油中150℃×1000時間の浸漬試験でも5%以下の体積膨潤に留まるグレードも報告されています。

特に低温下でも燃料や油に対する耐性が維持される点で優れ、シリコーンゴムでは膨潤しがちな環境に強い「万能ゴム」と言えます。

耐薬品性

フロロシリコーンは非極性溶媒や比較的穏やかな薬品には強いものの、万能ではありません。アルコールや芳香族炭化水素にはVMQより耐性が向上していますが、低分子のエーテル・エステル類、強酸・強アルカリ、加熱蒸気などに対しては十分な耐久性がありません。例えばケトン類や強酸に曝される用途には不向きです。

ただし、自動車用クーラントやグリコール系ブレーキ液、難燃性作動油(リン酸エステル系HFD液)などには実用上耐え得るグレードが存在します。総じて炭化水素系の油剤・燃料には強く、極性・反応性の高い薬品には弱いという特性です。

耐候・耐環境性

シリコーンゴム系素材の利点として、耐候性(耐酸化・耐オゾン・耐UV)に非常に優れる点が挙げられます。フロロシリコーンゴムも例外ではなく、屋外曝露やオゾン雰囲気下でも物性劣化が極めて小さいです。長期間の耐老化性にも優れ、5年以上の屋外曝露後も良好な性質を維持した例もあります。

またシリコーン特有の非粘着性(表面の離型性)や難燃性(自己消火性)の付与も可能であり、過酷な環境下で安定した性能を示します。

機械的強度と加工性

フロロシリコーンは力学的性質では他のエラストマーに劣る面があります。引張強さや引裂き強さはそれほど高くなく、耐摩耗性も低いため、動的に擦れるシールには不向きです。これは通常のシリコーンゴムと同様の傾向で、弾性や柔軟性と引き換えに強度が低いと言えます。さらにガス透過性が高く圧縮永久歪も大きめであるため、高圧下のシールでは押し出し変形を起こしやすい点に留意が必要です。そのため動的シールより静的シール向きであり、必要に応じてOリング溝のクリアランスを他材質より小さく設計する、バックアップリングを併用する等の対策が推奨されています。

一方で加工性は良好で、通常のシリコーンと同様に射出成形(HTV/LSR)や押出し成形が可能です。近年は液状フロロシリコーンゴム(F-LSR)も登場しており、成形の生産性とフロロシリコーンの耐流体性を両立する材料として実用化されています。

コスト

フロロシリコーンゴムの価格は一般に高価です。標準的なVMQに比べ数倍程度の単価になることが多く、FKMなど他の高性能ゴムと同程度かそれ以上です。このためコスト重視の用途では敬遠され、必要な性能に応じて部分的にFVMQを使用したり、VMQとのブレンド品でコストを下げる試みもあります(ただしブレンドにより性能は低下します)。

しかし、得られる性能(広範な温度域と耐油・耐候性の両立)がユニークであるため、代替が難しい用途ではコストに見合う価値があります。

主な用途分野と事例

フロロシリコーンゴムは、その幅広い温度特性と優れた耐油・耐燃料性から、特に以下の分野で活躍しています。

自動車業界

エンジン周辺や燃料系統のシール材として多用されています。具体的には、燃料ポンプやインジェクターのOリング、ガスケット、燃料タンクや配管のシール、キャブレターやスロットルのダイアフラムなどに使われます。

エンジンオイルやガソリンに晒される環境下でも長期間性能を維持でき、しかも寒冷時の柔軟性も必要とされる部位(例えば燃料フィルタやエバポ系バルブのシール等)で重宝されています。また近年のバイオ燃料や低温燃料噴射システムにも対応するシール材料として採用されます。

航空・宇宙分野

航空機の燃料系シールや作動油シールにおいて、フロロシリコーンゴムは定番材料の一つです。ジェット燃料や液体オキシダイザーなど特殊な流体にも耐え、かつ高度や外気温の変化による極端な温度差にも対応できます。

たとえば軍用機や宇宙ロケットの燃料システムのOリング、ドアシール、エンジンシール等に利用されています。従来は燃料環境下ではFKMが多用されましたが、低温条件が加わる航空用途ではFVMQが最適とされます。

電気・電子機器

過酷な環境で使われるセンサーやコネクタ類の防湿シール材、耐熱電線の被覆やコーティングなどに用いられます。例えば自動車の酸素センサーや各種アクチュエーターのシール、産業機器のコネクタパッキン等、耐熱性と耐油性・耐薬品性が同時に要求される電子部品向けに適しています。

また、耐候性や電気絶縁性を活かして屋外設置の電子機器筐体シールやケーブルジョイントにも使われています。通常のシリコーンゴムでは油分との接触で膨潤リスクがある場面でも、FVMQなら安全マージンが高いため選定されます。

医療機器・ライフサイエンス

シリコーンゴムは生体適合性が高く医療用素材として広く利用されていますが、フロロシリコーンゴムも薬品や体液に触れる特殊用途で使われます。例えば血液ポンプや人工心肺装置内のシール、試薬や溶剤を扱う分析装置のガスケットなど、通常のシリコーンでは溶媒に触れて膨潤する懸念がある場合にFVMQが選択されます。

また、一部の医療用接着剤・シーラントにはフロロシリコーン系のRTVゴムが使われており、耐薬品性と生体適合性を活かした応用です。もっとも、医療分野では薬品への曝露が限定的であれば安価なVMQで充分なケースも多いため、FVMQの出番は特殊用途に限られると言えます。

その他産業分野

石油・ガス産業では、油井機器や精製装置のシールにFVMQ Oリングが使用されています。これは野外での温度変化や天候に左右されず、かつ原油・潤滑油・天然ガスなどに耐える必要があるためです。

さらに、軍事用途(極寒地の油圧シリンダーシール等)や、化学プラントでの一部シール材、真空装置のシール(低蒸気圧で油に強いガスケット)など、過酷な条件下で従来材では性能不足となる環境でFVMQが選ばれています。

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