ミラブルシリコーンゴム(HCR)とは?
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ミラブルシリコーンゴム(Millable Silicone Rubber)は、高粘度の固形状シリコーンゴムコンパウンドで、ロールミルや混練機で加硫剤などを混合して成形加工するタイプのシリコーンゴムです。その名前はHigh Consistency Rubber(高粘度ゴム)の頭文字を取ったもので、一般に HCR と略称されます。高温で加熱・加圧することで硬化(加硫)させる必要があることから、高温加硫型シリコーンゴム(HTV: High Temperature Vulcanizing silicone)とも呼ばれます。HCRは、未硬化時の形状が練りゴム状で扱いやすく、天然ゴムなど従来のゴムと同様の設備(ロール機やプレス機など)で成形できる点が特徴です。
シリコーンゴム全体は、その硬化条件から大きく高温硬化型(HTV)と常温硬化型(RTV)に分類されます。HCRはLSRとともにHTVに属し、原料ポリマーの重合度の違いにより、HTVシリコーンゴムはミラブル(高粘度ゴム)タイプと液状シリコーンゴム(LSR: Liquid Silicone Rubber)タイプに大別されます。
HCRでは重合度が高く粘度の高い直鎖状ポリマー(平均重合度約3,000~10,000)にシリカ系強化充填材や添加剤を配合したベースコンパウンドを用い、使用時に加硫剤(過酸化物硬化剤や白金触媒など)を加えて加熱硬化させます。
一方、LSR(液状シリコーンゴム)は粘度が低い液状の前駆体ポリマー(重合度約100~2,000)を基にし、同様に充填剤や添加剤を含みますが、低~中粘度の液体状のため 射出成形機による成形が可能で、主にプラチナ触媒を用いた付加反応で 高温速硬化させるタイプです(一部は室温で硬化可能な縮合系もあります)。
またRTV(室温硬化型シリコーンゴム)は液状またはペースト状で、室温で硬化するタイプのシリコーンゴムです。RTVには1液型(空気中の湿気と反応して硬化)と2液型(主剤と硬化剤を混合して硬化)があり、接着剤やシーリング材、ポッティング材(充填硬化樹脂)などに利用されます。
ミラブルシリコーンゴムの主な特性
シリコーンゴム全般に共通する優れた特性として、以下のような点が挙げられます。特にHCRはこれらの特性をバランス良く備えるため、他の有機ゴムでは代替が難しい用途で広く用いられています。
耐熱性・耐寒性
シリコーンゴムは極めて広い温度範囲で弾性を保ちます。一般的なHCRでも -50℃程度の低温から+200~250℃程度の高温まで連続使用でき、特殊グレードでは -100℃以下や+300℃以上に耐えるものもあります。高温下でも性能劣化が少なく、低温下でも硬化や脆化しにくい点で他の多くのゴムを凌駕します。
耐候性
シリコーンゴムはオゾン、紫外線、風雨などによる劣化が極めて少なく、屋外で長期間使用できます。実際、シリコーンゴムを10年以上にわたり屋外暴露試験してもほとんど劣化が見られず、その結果から 100年程度使用しても問題ないと推定された報告もあります。この卓越した耐候・耐紫外線性は、屋外用途や厳しい環境下での信頼性を支える重要な特性です。
柔軟性・弾力性
シリコーンゴムはゴム弾性に富み、非常に柔軟で様々な形状に成形可能です。硬度(硬さ)は30~80程度(ショアA)まで調整でき、長期間の使用でも硬化やひび割れが起きにくく弾力を保持します。また、他の多くのゴムが硬化・劣化しやすい高温環境下でも柔軟性を維持する点はシリコーンならではです。
耐薬品性・耐油性
シリコーンゴムは一般に化学的に惰性で、多くの化学物質に対して安定した特性を示します。酸やアルカリ、極性溶媒などによる膨潤・劣化が起こりにくく、腐食性のガス等にも比較的耐性があります。またシリコーンは耐油性にも優れるとされ、エンジンオイルや潤滑油に接触する環境でも性能を維持しやすいです(※用途によってはフッ素シリコーンなど特殊グレードの使用が望ましい)。
電気絶縁性
シリコーンゴムは非常に優れた絶縁体で、高い絶縁耐力と低い誘電率を持ちます。高温多湿環境でも電気特性が安定しており、電線被覆や電子部品のシール材など電気・電子分野で広く利用されています。また誘電損失が小さく、高周波用途にも適しています。
生体適合性・無毒性
シリコーンゴムは生理学的に不活性(イナーシャ)で、硬化後は有害な可塑剤や添加物の溶出が極めて少ない材料です。食品衛生法やFDA等の規格適合品も多く、市販のシリコーンゴム製品の多くは食品や医療用途で安全に使用できます。臭気も少なく、哺乳瓶の乳首や医療用カテーテルなど人体に触れる用途にも適しています。
機械的強度
シリコーンゴムの機械的性質(引張強さ・引裂き強さなど)は、一般的な工業用ゴム(例えば天然ゴム)に比べるとやや劣るものの、実用上十分な強度を持ちます。典型的なHCRの引張強さは7~10MPa、伸び200~800%、引裂強さ15~40N/mm程度で、高強度グレードでは引裂強度を飛躍的に高めた製品も存在します。必要に応じて補強充填剤(シリカなど)や特殊添加剤で機械強度を調整でき、高引裂きシリコーンや高硬度シリコーンなど用途別の強化グレードも開発されています。
難燃性
シリコーンゴムは炭素系ゴムと異なり燃えにくい性質があり、炎にさらされても表面にシリカ質の炭化残渣を形成して自己消火性を示します。難燃グレードではUL94 V-0等の規格を満たす製品もあり、燃焼時に発生する煙やガスも非腐食性・無毒性で安全性が高いと報告されています。このため電線被覆材や耐火シール部品など、安全性が重視される用途にも適用されています。