液状シリコーンゴム(LSR)とは?
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液状シリコーンゴム(Liquid Silicone Rubber、略称: LSR)は、液状のシリコーン系エラストマーで、主剤と硬化剤の2液を混合して加熱することで硬化(加硫)させるゴム材料です。 この混合・加熱硬化により、液状樹脂を金型内で化学反応によって固形化する成形法は「液状インジェクションモールド成形(LIM成形)」とも呼ばれ、従来の熱可塑性樹脂射出成形(溶かして冷却固化)とは逆の原理となります。LSRは白金触媒による付加重合型(加成型)の高純度シリコーンゴムであり、室温で低粘度の液体状であるため射出成形による自動化生産に適しています。低粘度ゆえに非常に複雑な形状の金型にも充填しやすく、精密な成形品の大量生産が可能です。
LSR素材そのものはシリコーンゴムの一種であり、耐熱性、耐寒性、耐候性、電気特性、弾性復元性、密封性、衛生特性など多くの優れた特性を備えています。そのため各種シール部品やパッキンに用いられることが多く、自動車、家電・OA機器、医療分野など幅広い産業でニーズが高まっており、今後も需要拡大が予測されています。LSRという用語は主に材料を指しますが、成形方式として言及する場合には「LIMS(Liquid Injection Molding System)」とも呼ばれます。総じてLSRは汎用性の高い高性能エラストマーで、精密さと耐久性が要求される用途に広く使用されている点が特徴です。
主な物理的・化学的特性
液状シリコーンゴム(LSR)の物理・化学特性は、シリコーンゴムならではの優れた性能に由来します。以下に主要な特性を解説します。
幅広い温度耐性
シリコーンゴムは極めて高い耐熱・耐寒性能を持ち、150℃程度の高温下では長期間にわたり特性の劣化がほとんど生じません。一般的なLSR部品は約200℃の環境で1万時間以上使用可能で、短時間なら300℃近くにも耐えます。低温側でも性能維持に優れ、-50~-70℃程度でも弾性を保ち、一部の特殊製品では-100℃以下でも使用可能です。このように-50℃前後から200℃超まで物性を維持するため、高温になる機器周辺から極低温環境まで信頼性を発揮します。
耐候性・耐環境性
シリコーンゴムはオゾンや紫外線による劣化に極めて強く、屋外曝露や風雨に長期間さらされても物性変化がほとんどありません。また耐水性も高く、長時間水中にあっても吸水による影響が小さいため、湿度や天候の厳しい環境下で用いても硬化製品の寸法安定性や電気特性が維持されます。こうした耐候・耐水・耐湿性能により、屋外機器のパッキンや高圧ケーブル用ブッシングなどにも適しています。
電気的特性
シリコーンゴムは本質的に優れた電気絶縁体であり、広い温度範囲にわたって高い絶縁抵抗(10^14~10^16 Ω·cm)を示します。高温環境下でも電気特性の低下が少なく、絶縁材料として信頼性が高いため、電子部品や高電圧機器の絶縁用途に広く使われています。一方で、カーボンブラックや銀粉などの導電フィラーを配合することで導電性シリコーンを作ることも可能であり、キーボードの接点や静電気対策部品、シールド材などには導電グレードのLSRが利用されています。
機械的特性
LSRはゴム弾性に富み、高い伸長性能と復元性を示します。一般的なLSR製品の引張強度は約3~11MPa、伸びは220~900%程度と報告され、シリコーンゴム特有の柔軟性と高弾性を備えます。硬度(ショアA)は製品グレードによって約20~80程度まで幅広く調整可能で、用途に応じて軟らかいゲル状から比較的硬質な弾性まで選択できます。
一方、シリコーンは有機ゴムに比べ引裂き強度や耐摩耗性が劣る場合もあり、高荷重がかかる用途では補強フィラーを添加した高強度LSR(高引裂きグレード)などが用いられます。
化学的安定性と純度
シリコーンの主鎖はケイ素-酸素結合から成り、化学的に安定で不活性です。そのため耐酸化性・耐薬品性に優れ、多くの化学物質に対して材料が劣化しにくい特性を持ちます(ただし一部の有機溶媒や油類には膨潤する場合があります)。LSRは特に高純度で、過酸化物硬化型ゴムのような揮発性の副生成物を出さず、硬化後も残留物がほとんどありません。
このため無臭・無毒性であり、食品衛生や医療用途にも適したクリーンな材料です。また白金触媒による付加硬化型であるため硬化収縮が小さく、成形品の寸法安定性にも優れます。