SEPラバー(シリコーン変性EPDM)とは?材料構造と化学的特性
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SEPラバーはエチレンプロピレンゴム (EPDM) をベースに、シリコーンゴム成分を化学的に導入(変性)して得られたハイブリッドゴムです。EPDM分子鎖にシリコーン(有機ポリシロキサン)をグラフト結合させることで、両者の特性を併せ持つ材料構造になっています。これにより、通常のEPDMでは不足しがちな耐熱性・耐候性・低温特性が大きく向上します。
性能面ではシリコーンゴムとEPDMの中間に位置し、新たに優れた耐塩素性(塩素環境下での耐久性)やスポンジ発泡性(発泡ゴムへの加工適性)といった特性も発現します。つまり、化学構造上シリコーンの安定性とEPDMの強靭さを組み合わせたゴム材料となっています。
主な物理的・化学的特徴
耐熱性
SEPラバーはEPDMより高温に耐えることができ、EPDMの耐熱限界(約120~130℃程度)を上回り、150℃前後の高温環境でも使用可能なグレードがあります。一方、純粋なシリコーンゴムほどの超高温(200℃超)には及びませんが、「高耐熱グレード」のSEPラバーも開発されています。
耐寒性
EPDMは低温下でも柔軟性を維持できますが、SEPラバーはその低温特性もさらに改善されています。例えば-50℃程度の低温環境でも硬化や脆化が少なく、耐寒温度はEPDMより広がっています(シリコーンゴムの耐寒性(~-60℃程度)に近づけています)。このように高温から低温まで広い温度範囲で弾性を維持できることが特徴です。
耐候・耐環境性
SEPラバーは耐候性(耐オゾン・耐UV)に優れ、屋外環境での劣化が少ない点はEPDMと同等かそれ以上です。さらに塩素を含む環境での劣化に対して新たな耐久性を示し、耐塩素性が良好であることが報告されています。また耐水・耐湿性にも優れ、湿度の高い状況下でも電気的絶縁性能など物性を良好に維持します。
耐薬品性
EPDMがもともと強い耐薬品性(特に酸・アルカリや熱水・スチームへの耐性)を持つのに対し、SEPラバーでもその特性は維持・向上されています。例えば高温の蒸気や熱水、酸・アルカリ環境において、シリコーンゴム以上の耐久性を示すとされています。これはシリコーンだけでは劣化しがちな過酷な化学環境下でも、EPDM基材の強みが活きているためです。
力学特性(強度・弾性)
SEPラバーの機械的強度は両親の中間的ですが、特徴的なのは高温下での強度維持です。100℃以上の高温環境では、EPDMよりも引裂き強さが優れ、高強度タイプのシリコーンゴムに匹敵する引裂き強度を示します。室温での引張強度や引裂き強度も十分に高く、引張強さで約11~17MPa程度、引裂き強さで25~35kN/m程度を達成するグレードがあります。
伸び(破断時伸び)も数百%に及び、ゴム弾性として優れた伸長性を持ちます。圧縮永久歪(圧縮後の戻り)も改良されており、繰り返し圧縮下での耐久性に優れる点も特長です。総じて、SEPラバーはシリコーンゴムほど軟らかくはなく機械的強度に優れ、しかも広い温度範囲で弾性を保つバランスの取れた物性を備えています。
主な用途分野と事例
SEPラバーは、その特性から幅広い産業分野で利用されています。主な用途例を分野ごとに挙げます。
自動車分野
エンジンルームなど高温環境下で使われるゴム部品に適しています。例えばスパークプラグ・ブーツ(点火プラグ端子の絶縁カバー)はエンジン周辺の高熱に晒され、かつ着脱時の引張り強度も要求されますが、SEPラバー製のプラグブーツはその要求を満たします。
このほかターボホースや高温ガスケット、エンジンマウント部材など、高温下で強度と耐久性が必要な自動車用ゴム部品に用いられます。
電気・電子分野
電線被覆やコネクタ用シール、高電圧機器の絶縁ブッシュ等に利用されています。特に湿気の多い環境下でも電気的特性を維持できることから、屋外配電用のブッシングやケーブル接続部、防水シール材として適しています。
また半導体製造装置などクリーン環境・高温雰囲気で使われるOリングやシール材にも、シリコーンの低アウトガス性とEPDMの耐薬品性を両立する材料として期待されています。
建築・土木分野
屋外で温度変化や天候にさらされるシーリング材やジョイント材に利用されています。たとえば橋梁や高速道路の伸縮継手用ゴムでは、夏冬の極端な温度差や動的荷重に耐える必要があり、シリコーン変性EPDMの弾力と耐久性が活かされています。
また建築分野では屋上や外壁用の目地シールにおいて、耐候性と耐寒熱性のバランスから採用例があります。
さらに、工業用ゴムシートとして極寒・高温環境向けに使われるケースもあります。実際、日本では冷凍庫用の間仕切りシートや防氷シートにシリコーン変性EPDMゴム引布を用いた製品が実用化されています。
同様に耐熱ダクトや高温ホース類にも利用され、-50℃の低温から130℃の高温まで対応するゴム素材として重宝されています。
医療・食品分野
オートクレーブ滅菌(高温高圧蒸気)に耐えるゴムシールや、食品機械のガスケットに応用されています。従来はEPDMやシリコーンが使われてきましたが、SEPラバーは繰り返しの高温スチーム滅菌や洗浄薬品に対する耐久性が高く、かつシリコーンほど添加物が溶出しにくい利点があります。
例えば食品充填機のパッキンや、医療用高圧蒸気滅菌器のシール材として耐熱・耐薬品性と弾性の両立を評価され採用されつつあります(※)。ただし、生体適合性が特に要求される医療インプラント用途には不適で、一般工業用途向け素材との位置付けです。
その他の分野
住宅設備機器(給湯器やボイラーのガスケット)、家電(オーブンやアイロンのシール部)など、温度変化の激しい機器部品にも用いられます。また住宅建材ではサッシや戸締りの耐候パッキンに、スポンジ成形したSEPラバーが使われる例もあります。