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  • 2025年9月2日
  • 更新日:2025年9月2日
  • 材料選定

  • ゴム素材の種類と特性。選び方について。

ゴム(エラストマー)には天然由来のものから各種の合成ゴム、高機能な特殊ゴムまで多様な種類があり、それぞれ耐熱性・耐油性・耐候性(耐オゾン・耐紫外線)などの物性や長所・短所が異なります。

設計者は要求される使用環境(温度範囲、油や薬品への曝露、屋外使用の有無など)に応じて素材を選ぶ必要があります。例えば、工業規格のASTM D1418(ISO 1629)では各種ゴムを略号で分類しており、天然ゴムはNR、ニトリルゴムはNBR、フッ素ゴムはFKMなどと定義されています。

ニッシリはシリコーン一筋「70年」
シリコーンゴムと樹脂の試作~大量生産をサポートします。

当記事では、ゴム材料を以下の三つのカテゴリーに分け、それぞれの代表的な種類について特徴、長所・短所、適した用途、主要な物性を説明します。

  • 一般的なゴム(汎用エラストマー)
    例:天然ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)など

  • 合成ゴム(各種用途向け合成エラストマー) 
    例:ニトリルゴム(NBR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、フッ素ゴム(FKM)、シリコーンゴムなど

  • 特殊用途向け高機能ゴム
    例:水素添加ニトリルゴム(HNBR)、アクリルゴム(ACM)、エチレンアクリルゴム(AEM)、パーフルオロエラストマー(FFKM)など

一般的なゴム(汎用エラストマー)

まず、古くから広く利用されている汎用的なゴム材料について説明します。代表的なものとして天然ゴム(NR)とスチレンブタジエンゴム(SBR)があります。これらはタイヤなど大量生産品に使われてきた歴史があり、機械的強度などに優れる一方で、耐候性や耐油性に課題があります。

天然ゴム (Natural Rubber, NR)

天然ゴムはゴムノキの樹液(ラテックス)を原料とする唯一の天然由来エラストマーです。未加工のままでは熱や溶剤に弱いですが、硫黄での加硫硬化処理により実用材料となります。NRは非常に高い弾性と強靭さを持ち、多くの汎用用途に適します。

長所

加硫天然ゴムは引張強度・伸び・弾性(反発弾性)に極めて優れ、引裂き抵抗や摩耗耐性も高いことが特徴です。また、低温下でも柔軟性を保ち耐寒性が良好で、振動吸収能力にも優れます。硬度調整範囲も広く(ショアA硬度40~90程度)、金属との接着が容易なため、防振ゴムなどゴム金属接着部品にも適しています。

短所

耐候性(耐オゾン・耐紫外線)が低く、屋外曝露で亀裂や劣化が生じやすい点が最大の弱点です。また耐油性も低く、特にエンジンオイルやガソリンなど石油系油剤には著しく不向きです。熱に対しても高温下では性能が低下し、実用上の温度範囲は概ね-50℃~+100℃程度(乾熱雰囲気)とされています。さらに圧縮永久歪(圧縮セット)も大きめで、密封用途では経時でシール性能が低下しやすいとされています。

用途例

優れた弾性と強度からタイヤをはじめ広範な工業製品に用いられてきました。現在でもゴムシート、ベルト、ホース、防振ブッシュ・エンジンマウント(振動吸収)など機械的荷重がかかる部品に適用されています。食品業界向けにラテックス由来の衛生手袋や食品容器用シールなど食品接触用途にも使われます。ただし前述のように耐油・耐候性が要求される用途には適さないため、屋外用途や油に触れるシール材には避けるべきです。

スチレンブタジエンゴム (Styrene-Butadiene Rubber, SBR)

SBRはブタジエンとスチレンの共重合による合成ゴムで、第二次大戦中に天然ゴム代替として開発・大量生産された歴史があります。物性は天然ゴムに近く、比較的安価で大量生産可能なため現在でもタイヤ材料などに幅広く使われています。

長所

NRに匹敵する引張強度・弾性を持ち、耐摩耗性や耐水性にも優れています。低温柔軟性も良好で-50℃程度まで使用可能です。また配合により耐ブレーキ液性を付与でき、SBRは自動車のブレーキ液(グリコール系液)に対する耐性がある点が特徴です。このため自動車のブレーキシステム用シールやダイアフラムに用いられることがあります。

短所

耐候性はNR同様に低く、オゾンや日光で容易に劣化・亀裂が生じます。さらに耐油・耐溶剤性も低く、石油系油や有機溶剤には適しません。総じて屋外や油類に曝される環境では長期性能を維持できないため、これらの条件下では使用できません。またNRと比べ耐熱性もさほど向上しておらず実用温度上限はおよそ100℃程度です。

用途例

SBRの最大用途はタイヤであり、他の素材とブレンドされつつ今なおタイヤ製造に広く使われます。他には自動車のブレーキシリンダー用カップシールやゴムホース、各種パッキン類など天然ゴムの代替として用いられます。ただし耐油・耐候性が要求される用途では合成ゴム(後述のNBRやEPDM等)が選択されるため、SBR単独で使われるのは主に屋内や非油環境下の工業部品に限られます。

一般ゴムの特性比較表

次に、天然ゴム(NR)とSBRの主な物性をまとめます。NRは力学特性に優れますが耐環境性に劣り、SBRはNRに近い力学性能を持ちながらやはり耐候・耐油性に課題があります(表1)。

これら汎用ゴムは安価で成形性も良い一方、高温や油・屋外曝露には不向きなため、用途に応じて後述する各種合成ゴムで補完する必要があります。

特性項目 天然ゴム (NR) SBR
硬さ (Shore A) 40~90(調整幅広い) 40~90(NRと同程度)
引張強度・弾性 非常に高い(高強度・高伸び・高弾性) 高い(NRに類似)
耐摩耗・耐裂傷性 優れる(高い耐摩耗・耐裂性) 良好(良好な耐摩耗性)
耐熱性 中程度(~+100℃まで) 中程度(~+100℃程度)
耐寒性 良好(~−50~−60℃まで柔軟) 良好(~−50℃まで)
耐油性 劣る(石油油で劣化・膨潤) 劣る(石油油で劣化)
耐候性(耐オゾン) 劣る(オゾンクラック発生) 劣る(オゾン・光で劣化)
主な用途 タイヤ、防振材、一般工業部品 タイヤ、非油環境下のパッキン類

表:天然ゴム(NR)とスチレンブタジエンゴム(SBR)の比較 – NRは機械的強度に優れるが耐油・耐候性が低い。SBRはNR代替の合成ゴムで性質は概ね似ているが、同様に耐油・耐候性に難がある。

合成ゴム(代表的な工業用エラストマー)

続いて、工業用途で広く使われる主要な合成ゴムについて説明します。合成ゴムは目的に応じて様々なモノマーを組み合わせて開発されており、ここでは特に使用頻度の高いニトリルゴム(NBR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、フッ素ゴム(FKM)、シリコーンゴムを取り上げます。それぞれ耐油性や耐熱性などに優れた特性を持ち、汎用ゴムの短所を補う形で様々な用途に使われています。

ニトリルゴム (Nitrile Rubber, NBR)

ニトリルゴムはブタジエンとアクリロニトリルの共重合体で、耐油性の高さで最も有名な合成ゴムです。一般には「ニトリルゴム」または商標名由来でブナNとも呼ばれ、自動車や産業機械のオイルシール材として広く利用されています。

長所

NBR最大の長所は石油系油脂類に対する卓越した耐油・耐燃料性です。エンジンオイル、ディーゼル燃料、ガソリンなどに長期間さらされても物性を維持でき、膨潤や軟化が少ないためシール材として最適です。加えて、適切に配合すれば耐摩耗性・引裂き強度・圧縮永久歪の小ささなど機械的強度バランスにも優れ、経済性も良いためシール業界で最も広く使用されているエラストマーとなっています。標準的な使用温度範囲は-30℃〜+100℃程度ですが、特殊配合で-50℃近くや120℃超を実現するグレードもあります。

短所

耐候性(耐オゾン・耐紫外線)が劣る点がNBRの主な短所です。屋外で日光やオゾンに晒されるとひび割れを起こしやすいため、NBR製シールは基本的に機器内部や油封内部など日光曝露のない場所で使われます。また耐熱性も中程度で、連続使用は100℃前後が上限となり、高温環境では次に述べるHNBRなど耐熱改良品が用いられます。

さらに、アクリロニトリル含有量を増やして耐油性を高めた場合は低温柔軟性が低下する(脆くなる)トレードオフもあります。他にオゾン劣化防止のための薬剤を配合しない限り保管中でも表面がひび割れることがあるため、保管寿命も環境次第では短くなります。

用途例

Oリングやオイルシール、ガスケット、ホース、燃料タンク周りのパッキン類など油に接するあらゆるシール用途に用いられます。自動車ではエンジン・燃料系統、油圧機器ではシリンダーシール、航空機でも燃料システムのOリングなど、NBRなくしては成り立たないほど多くの機械部品で使われています。低温用ニトリルは寒冷地向け装置にも使用されます。一方、屋外で使用するゴム部品(例:戸当たり材や屋外ケーブル部)にはNBRは避け、耐候性に優れるEPDM等が使われます。

エチレンプロピレンゴム (Ethylene Propylene Rubber, EPDM)

EPDMはエチレンとプロピレンを主成分とし少量の共役ジエンを含む三元共重合ゴムです。飽和度が高い構造のため耐候性(耐オゾン・耐UV)に極めて優れ、ゴム材料中でも最も耐老化・耐候性が高い部類に属します。また極性の高い流体にも安定であることから、屋外用途や水回り用途で重宝されます。

長所

耐候性が極めて良好で、屋外曝露下でもオゾンクラックや日光劣化を起こしにくく長期耐久性があります。さらに耐薬品性にも優れ、酸やアルカリ、アルコール類、ケトン類、ブレーキ液(グリコール系)、熱水・蒸気など極性液体や熱水蒸気に対する耐性が強い点も大きな長所です。連続使用温度も150℃前後まで耐え、ゴム中で最高クラスの耐熱老化性を示します。低温側も硫黄架橋品で-40℃程度、過酸化物架橋の特殊品では-50~-55℃まで使用可能で耐寒性も良好です。電気特性も良いため絶縁材料にも適します。

短所

耐油性が極めて低いのが致命的短所です。EPDMは炭化水素系の非極性油(鉱物油、ガソリン、灯油など)に侵されやすく、大きく膨潤・分解してしまいます。したがってエンジンオイルや燃料に触れる環境では全く使用できません。

また粘着性が低く、接着や自己癒着が難しい点、機械的強度(引裂き強度や耐摩耗性)が中程度である点も挙げられます。ただしこれら弱点は適切な補強剤やブレンドである程度改善可能です。

用途例

自動車の耐候部品に数多く使われ、例えば車のドア・窓枠シール、ウェザーストリップ、ワイパーブレード、ラジエーターホース(冷却水ホース)、ブレーキ系統のシール(グリコール系ブレーキ液用)、電線被覆、屋外用ゴムシート、建材シーリング材など枚挙に暇がありません。また飲料水用シール材にも適し、水道用ゴムパッキンやホース(各種規格の適合材料)にもEPDMが指定されます。このように「油に触れない屋外部品」はEPDMといわれるほど定番素材です。

クロロプレンゴム (Chloroprene Rubber, CR / ネオプレン)

クロロプレンゴムはクロロプレン(塩素化ブタジエン)のホモポリマーで、デュポン社の商標名「ネオプレン」として知られます。ハロゲン原子を含む構造のため他の汎用ゴムにない特性を持ち、耐油性と耐候性をバランス良く備える点でユニークな合成ゴムです。いわば“NBRとEPDMの中間”的な性質を示し、自動車や工業製品で長年利用されています。

長所

耐油性と耐候性を両立していることが最大の特徴で、適度に油に強く(NBRほどではないが鉱物油に中程度の耐性あり)かつオゾンや天候にもある程度耐えます。これはCR特有の長所で、他のエラストマーではこの両面で中程度以上の性能を示すものは多くありません。さらに耐摩耗性・引裂き抵抗も比較的良好で弾性(反発弾性)も十分あります。

加硫ゴムとして圧縮永久歪も小さめでシール材としての寸法安定性も良好です。耐候性もNBRよりは優れ、屋外使用にもある程度耐えうるため、汎用ゴム中では用途の広いバランス型素材といえます。使用温度範囲は-40℃〜+120℃程度と中程度です。また塩素含有のため自己消火性(難燃性)があり、燃えにくい特性も持ちます。

短所

どの性能も「中庸」であり、突出した点がない反面、最高性能が求められる用途には不十分な場合があります(例:高温下ではFKMには及ばず、低温ではシリコーンには及ばない等)。耐油性はNBRほど高くなく、長期的な油漬け環境では徐々に劣化します。

また耐熱水・耐蒸気性が低く、高温水中で加水分解しやすいという弱点があります。実際、CRは沸騰水や高温蒸気に曝される用途には不向きなので注意が必要です。加えて、他のゴムと比べ電気絶縁性が劣る(導電性が高い)点も場合によっては短所となります。

用途例

耐油性と耐候性のバランスが良いため、自動車部品ではエンジンルーム周辺のホース・ベルト・ブーツ類、電装部品の防塵カバーなどに使われます。また工業用ホースやコンベヤーベルト、パッキン類、接着剤原料(ネオプレン系接着剤)など用途は多岐にわたります。

特に冷媒(フロン・アンモニア)に対する耐性があるため、冷凍機や空調機器のシール材に古くから採用されています。例えば冷凍機用OリングやパッキンにCRが指定されていることがあります。この他、ウェットスーツ素材(発泡ゴムシート)としても有名で、海水や日光に曝される環境下での弾性体として活躍しています。

フッ素ゴム (Fluorocarbon Rubber, FKM)

フッ素ゴム(FKM、デュポン社の商標名Viton™など)は、フッ素原子を含む炭化水素系高分子(例:フッ化ビニリデンと六弗化プロピレンの共重合など)からなる合成ゴムです。200℃級の耐熱性と卓越した耐薬品・耐油・耐燃料性を誇り、ゴム中で最も過酷な環境に耐える素材の一つです。その性能の高さから「汎用エラストマー中、ほぼ唯一の万能ゴムに近い存在」と評されます。

長所

耐熱性はゴム中トップクラスで、標準グレードで+200℃前後、特殊グレードでは+230℃程度まで連続使用できます。耐油性・耐薬品性も抜群で、ガソリンなど炭化水素燃料にさらされてもほとんど膨潤せず、各種ケミカル(油・溶剤・化学薬品)にも幅広く耐えます。オゾンや天候による劣化も起こらず耐候性は非常に高いです。

さらに、高温環境下でも機械的強度をよく維持し、圧縮永久歪(圧縮セット)も小さいためシール材として理想的な特性を備えます。ガス透過も小さいので真空環境用シールにも適します。これらの総合力の高さゆえ、FKMは「ほとんどの用途で使用可能」と言われます。

短所

低温環境では硬化・弾性低下する点が主な弱点です。一般的なFKMは約-15℃以下で急激に硬化しはじめ、しなやかさを失うため、寒冷条件下での動的シールには不向きです(低温用特殊グレードでは-40℃程度まで改善したものもあります)。また、高温水や蒸気、極性の強い溶媒(ケトン類やエステル類)には化学的に弱く、接触すると膨潤・分解する場合があります。

例えばエンジン冷却水・蒸気や、ブレーキ液(ポリグリコール系)、アセトンや酢酸エチルなどの溶媒には不適です。さらに素材コストも高価で比重も重く(約1.8前後)、一部では費用対効果の面で敬遠される場合もあります。

用途例

自動車の過酷部位では欠かせない素材で、例えばエンジンのシリンダーヘッド周辺のガスケット、燃料噴射系シール、ターボチャージャーのオイルシール、排気系統のOリングなど高温かつ油や燃料に曝される箇所に使われます。航空宇宙分野でもジェットエンジンや燃料系シールに採用されています。化学プラントでは、各種薬品タンクや配管フランジのガスケット、ポンプシールなどに広く用いられています。

さらに真空機器のシール材(低ガス透過性を活かしたバキュームシール)として、あるいは耐燃料性と難燃性を活かし防護服や特殊ホースにも利用されています。総じて「高温」「石油系流体」「屋外環境」のいずれか、または複数が重なる条件下では真っ先に検討される素材です。

シリコーンゴム (Silicone Rubber, VMQ)

シリコーンゴム(シリコーンエラストマー)は他のゴムとは骨格構造が異なり、炭素鎖でなくシロキサン結合(Si-O-Si)を主鎖にもつ高分子からなる合成ゴムです。この構造により極めて広い温度範囲で柔軟性を保つことが可能で、耐熱・耐寒性はゴム中随一です。また化学的に安定で純度が高く、生体適合性も良いことから医療・食品分野でも利用されます。

長所

シリコーンゴム最大の特長は使用温度範囲の広さです。一般品で-60~+230℃程度、特殊品では-100℃近くから+250℃超まで機能を維持できます。低温下でもガラス転移点が低いため硬化せず柔軟性を保ち、また高温下でも熱酸化分解しにくく弾性を維持します。

さらに耐候性(耐オゾン・耐UV)に極めて優れ、屋外曝露でもほとんど劣化しません。耐水性も高く、吸水や加水分解の懸念が少ないです。電気絶縁性にも優れており電子部品の絶縁封止材等にも利用されます。また味や臭いが非常に少ないクリーンな材料で食品医療用途に適し、FDA規格適合のシリコーンゴムは医療用シールや食品機械部品にも採用されています。

短所

シリコーンゴムは機械的強度(引裂き強度や耐摩耗性)が低いことが最大の短所です。他のゴムに比べて柔らかくちぎれやすいため、引張荷重のかかる動的シールや摩擦の多い用途には不向きです。また摩擦係数が高めで摺動部品には適さず、ほとんどは静的シール用途に限られます。耐油性も限定的で、シリコーンは鉱物油や燃料への長時間曝露で膨潤・軟化しやすいため、油圧作動油やガソリンがかかる環境には通常用いません(ただし後述のフッ素シリコーンはその短所を補っています)。

さらにシリコーンは弾性率が低く高圧下での押し出し抵抗が弱いため、高圧シールではバックアップリング併用等の対策が必要です。素材コストもやや高めです。

用途例

高温または低温環境下の静的シール用途が代表的です。例えばガスタービンやボイラー周辺の高温用ガスケット、産業用オーブンや加熱器具のシール、極低温機器(冷凍冷蔵設備や宇宙機器など)のOリングに用いられます。

また食品医療分野ではシリコーンの無味無臭・耐熱性を活かし、食品加工機械のパッキン、点滴ポンプチューブ、人工呼吸器シールなどに使われます。電気用途ではキーパッドやコネクタシール、電子基板のポッティング材など電気絶縁ゴムとしての応用があります。なお動的なオイルシール用途(回転軸シール等)には原則不向きであり、これらにはNBRやFKM系が選択されます。

合成ゴムの特性比較表

合成ゴムにはそれぞれ得意分野があり、「油に強いNBR」「天候に強いEPDM」「高温に強いFKM」「極温環境に強いシリコーン」など目的に応じて使い分けられています(表2)。設計者は求める性能に応じて素材を適切に選定する必要があります。

種類 (略号) 耐熱性 (連続使用温度) 耐油・耐薬品性 耐候性 (耐オゾン・耐UV) その他特徴・用途例
ニトリルゴム (NBR) 中~やや高(~+100℃、特殊配合+120℃超) 非常に良い(石油系油・燃料に最適)  劣る(オゾンで劣化) 引裂き強度・耐摩耗にも優れる。油圧シール、Oリングに最頻用。屋外では不可。
エチレンプロピレン (EPDM) 高い(~+150℃程度) 極めて低い(油類で膨潤劣化) 極めて良い(最良の耐候性) 極性液体・熱水に強い。屋外部品(ウェザーストリップ等)や水用シールに使用。油には非適用。
クロロプレン (CR、ネオプレン) 中程度(~+120℃) 中程度(油・溶剤に中耐性) 中程度(耐候性は平均的) 難燃性あり。耐摩耗・耐老化バランス良。自動車ホース・ベルト、耐候ゴム部品に広く使用。
フッ素ゴム (FKM、例:Viton™) 非常に高い(~+200〜230℃) 非常に良い(燃料・薬品に広耐性) 非常に良い(オゾン・天候劣化なし) 低温時硬化に注意。高温・油中シールで定番。燃料、航空、化学用途に。
シリコーン (VMQ) 最高(~+230℃、特殊品250℃) やや低い(油には不向き) 非常に良い(オゾン・UVに強い) 耐寒性最高(-50℃以下も可)。引裂強度低い。高低温静的シール、医療用途に使用。

表:代表的合成ゴムの比較 – NBR(耐油性に優れるが耐候性低)、EPDM(耐候・耐薬品性優れるが耐油性低)、CR(油と天候に中程度耐性のバランス型)、FKM(耐熱・耐薬品性で最高性能)、シリコーン(極端な温度範囲に対応)それぞれに強みと弱みがある。

特殊用途向けの高機能ゴム

最後に、特定の用途向けに開発された高機能ゴムを紹介します。これらは上記の基本合成ゴムを改良したものや、特殊なモノマーを用いたもので、高温下や過酷な薬品環境など一般のゴムでは対処できない条件で威力を発揮します。その反面、価格が高い・加工が難しいなどの制約もあり、必要な場合に限定して使われます。代表例として水素添加ニトリルゴム(HNBR)、アクリルゴム(ACM)、エチレンアクリルゴム(AEM)、パーフルオロエラストマー(FFKM)を取り上げます。

水素添加ニトリルゴム (Hydrogenated Nitrile, HNBR)

水素添加ニトリルゴム(ハイドロゲネーテッドNBR、別名: 水素化ニトリルゴム)は、前述のNBRの二重結合を部分的または完全に水添(飽和化)して耐久性を高めた改良材料です。NBRの優れた耐油性はそのままに、耐熱・耐酸化性や耐候性を向上させているのが特徴です。

長所

耐熱性・耐油性がNBRより大幅に向上しています。連続使用温度は約+150℃(一部グレードは+170℃近く)に達し、高温環境下でのシール寿命が長くなります。また耐オゾン・耐候性もNBRの約5倍改善されており、屋外曝露やオゾン雰囲気にもある程度耐えられます。

さらに機械的強度(引張強度、耐摩耗・耐破壊特性)も向上し、圧縮永久歪の低減などシール材としての信頼性が高まっています。要するにNBRの長所を残しつつ弱点を補強した高性能版といえます。油剤中の添加剤(酸化防止剤、洗剤成分、耐摩耗剤など)に対しても高い耐性を示し、自動車エンジン油中や硫黄含有油への長期曝露にも耐えます。

短所

水素添加により高性能化した分、コストが大幅に上昇します(一般にHNBR製品はNBRの数倍の価格とされます)。また構造が硬化するため低温柔軟性は低下しがちで、同じ条件ではNBRより寒冷環境で硬くなります。実用上-30℃程度が下限であり、低温用途では通常のNBR(低ACNニトリル)が有利な場合もあります。

他の短所はベースがNBRと同様なので、エーテル・ケトン・塩素系溶媒には不適な点は共通しています。

用途例

自動車用シール類の高性能品に多用されます。例えば自動車のエンジンオイルシールや燃料系Oリングで、高温のエンジン油や過酸化燃料に晒される部位にはHNBRが指定されます。

また油田掘削機器のパッキンや、化学工場の高温油用ガスケットなど、苛酷な条件下で長寿命を要求されるシールに使われます。近年ではエアコン用Oリング(高圧の冷媒と油に曝露)もHNBRが主流です。高価なため必要箇所に限定して使われますが、標準NBRでは性能不足な場合の有力な選択肢です。

アクリルゴム (Polyacrylate Rubber, ACM)

アクリルゴム(ACM、アクリル酸エステルゴム)はアクリル酸アルキル(例えばアクリル酸エチル)を主成分とする共重合ゴムです。最大の特徴は高温下の石油系油類に対する優れた耐久性で、エンジンや自動車部品のオイルシール用途に開発されました。他のゴムが劣化する150℃前後の高温油中でも長時間性質を保つ点が評価されています。

長所

耐熱性と耐油性の組み合わせが非常に優秀です。約+150℃の熱いエンジンオイル中でも性能を維持でき、自動車のオートマチック変速機(AT)やパワーステアリングなどのシール材に最適です。また耐候性(耐オゾン・耐日光性)も良好で、ゴムの亀裂耐性(フレックスクラック耐性)にも優れるため、自動車部品での長期使用に耐えます。さらに極性が高い構造ゆえ燃料や油中添加剤による膨潤が少ない配合も可能です。総じて「高温下でオイルや燃料に晒される環境」に強いゴムといえます。

短所

低温柔軟性がやや劣るため、寒冷時に硬化しやすく-20℃前後が使用下限になります。また耐水性がさほど高くなく、水や湿気下での長期使用では若干性能が低下します。機械的強度も中程度で、特に引張強度や引裂きはNBRほど高くありません。

さらに圧縮永久歪(シール性)はNBRに比べ悪化しやすい傾向があり、長期シール荷重保持では注意が必要です。ただしこれらはある程度配合で補えます。化学的にはグリコール系液(ブレーキ液)や塩素系溶剤に弱い点も留意すべきです。

用途例

自動車のオイルシール材として代表的で、ATミッションのオイルシールやOリング、パワステ用シール、エンジンオイル系統のガスケットなどに広く使われています。他に産業機械の高温油用パッキン、エンジンのロッカーカバーガスケット等にも採用例があります。

逆にブレーキ液用シール(グリコール系液)や低温環境下の用途には不向きなので、これらではEPDMや他ゴムが用いられます。なおACMは比較的安価で量産しやすいため、自動車ではNBRに次いで採用頻度の高い合成ゴムとなっています。

エチレンアクリルゴム (Ethylene Acrylic Rubber, AEM)

エチレンアクリルゴム(AEM)はアクリルゴム(ACM)を改良し、エチレンとアクリル酸メチルを主成分とする共重合体にわずかな架橋用第三成分を加えたゴムです。デュポン社の商品名Vamac™が有名です。AEMはACMに比べて低温特性と機械的強度が改善されており、自動車用途でHNBRやACMと並び用いられます。

長所

耐熱性・耐油性はACMに近く、150℃程度のエンジンオイル中でも使用可能です。加えて、低温側の使用限界がACMより拡大し、-30℃前後まで性能を発揮できます。このため寒冷地を含む自動車用途に適します。オゾンや紫外線に対する耐候性も優秀で長期耐久性があります。ゴム弾性も適度で振動減衰特性にも優れ、自動車の防振部材としても利用されます。

さらにAEMはガス透過率が低めで、シールとしての気密保持能力も高いです。耐薬品性ではトランスミッション液、エンジン冷却水(不凍液混合水)、希薄な酸・アルカリに対して良好な耐性を示します。総じて自動車エンジン回りの過酷環境に向け最適化された特性を持っています。

短所

基本的性質はACMに類似するため、耐燃料性(ガソリン)や耐ブレーキ液性は限定的です。芳香族炭化水素(ベンゼン系)や強酸、エステル系溶剤にも弱く、これらへの曝露がある場合にはFKM等を検討すべきです。また、HNBRほどではないものの価格はNBRより高価です。機械的強度もHNBRに及ばず、中程度といえます。ただしAEMはACMとFKMの中間的ポジションを占め、ある程度幅広い性能バランスを持つため短所は用途で補いやすいです。

用途例

主に自動車の耐熱油ゴム部品に使われ、ATミッションシール、パワーステアリングシール、オイルクーラーホース、ターボチャージャーのエアダクトなどに採用されています。またエンジンマウントなど防振ゴムにもAEM製が用いられることがあります。ACMと同様にブレーキ系(グリコール系液)部品や燃料系統には用いず、これらはEPDMやFKMに任せるのが一般的です。

パーフルオロエラストマー (Perfluoroelastomer, FFKM)

パーフルオロエラストマー(FFKM)はエラストマー材料中で最高級の耐薬品・耐熱性能を持つゴムです。FKM(フッ素ゴム)が炭素‐フッ素結合を主骨格に持つのに対し、FFKMでは水素原子までもフッ素で完全に置換した高分子(いわば「ゴム状のテフロン」)から構成されます。その結果、ゴムの弾性とPTFE(テフロン)並みの化学的惰性を両立しており、他のあらゆるエラストマーが性能不足となる極限環境で使用されています。

長所

耐薬品性は全エラストマー中で最も優れ、濃硝酸・強アルカリ・芳香族溶媒など特殊な薬品を含めほぼあらゆる化学薬品に耐えるとされています。例えば1,800種類以上の薬品(炭化水素、油、燃料、酸、アルカリ等)への耐性データがあり、大半で膨潤や物性劣化が起こりません。

また高温安定性も卓越しており、一般品で+250~+300℃に耐え、特定グレードでは最高330℃程度に達します。これは長時間の高温曝露に耐えるシール材が求められる化学プラントなどで大きな長所です。低温側は-20~-40℃程度まで使用可能です。

さらに耐蒸気性(高温スチーム中での耐久性)や耐真空性も非常に高く、過酷環境下で長期間弾性を保ちます。機械的性質としては、フッ素ゴム同様にもともと強度がありますが、PTFE成分由来で摩擦係数が低く潤滑性にも優れています。総合すると、耐熱・耐薬品・耐ガス透過・耐老化の全てにおいて最高レベルの性能を発揮します。

短所

最大の短所は非常に高価なことです。原料製造コストが高く生産量も限られるため、FFKM製シールは「最後の手段」として位置づけられます。また低温柔軟性はシリコーンほどではなく、極低温下では硬化します(標準品で-15~-20℃付近が下限)。

他にも、特定の限られた薬剤に対しては注意が必要で、例えばフッ素系溶媒(フレオンなど)や一部の特殊ガスには膨潤する場合があります。しかしこれら特殊ケース以外に明確な性能上の弱点はなく、まさに「ゴム材料の究極形」といえます。

用途例

半導体製造装置(プラズマエッチング用のシール等)、石油・ガス掘削設備(油井の高温パッキン)、化学工場(各種薬品槽やポンプシール)、食品医薬品設備(高温殺菌工程のガスケット)など、他のゴムでは耐えられない領域に使用されます。自動車や航空では通常ここまでの性能は不要なため限定的ですが、ターボ分子ポンプのシールなど高真空・高温部に使われることがあります。

また宇宙開発分野でも極限環境用シールとして研究されています。代表的な製品名としてデュポン社のKalrez™やグリーンツイード社のChemraz™が知られています。

高機能ゴムの特性比較表

最後に、高機能ゴム4種の特徴を簡単にまとめます(表3)。HNBRはNBRを高性能化したもので耐熱・耐油・耐候性が向上した分コスト増となります。ACMとAEMはいずれも自動車高温油用で、ACMは耐熱油に極めて強くAEMはそれに加えて低温側を改良したものです。FFKMは他を圧倒する性能を持つ特殊素材ですが、コストが極めて高く一般には必要最小限の用途に限定されます。

種類 (略号) 耐熱性 耐油・耐薬品性 耐候性 主な用途・特徴
水素添加ニトリル (HNBR) ~+150℃(NBRより向上) 非常に良い(油・燃料全般) 良い(NBR比 大幅改善) NBRの性能向上版。高温油シールに使用。低温時硬化に注意。
アクリル酸エステル (ACM) ~+150℃(高温油中で安定) 非常に良い(熱い石油油に強い) 良い(耐オゾン良好) 高温エンジンオイル用。ATシール材として定番。低温と水には弱い。
エチレンアクリル (AEM) ~+150℃(ACM相当) 良い(油に強いが燃料は不可) 良い(耐候・耐老化◎) ACMの低温改良版。車のAT・ステアリングに使用。燃料用途不可。
パーフルオロ (FFKM) 最高(~+300℃) 最高(ほぼ全ての薬品に安定) 最高(全く劣化しない) ゴム中最も高性能。化学・半導体産業で不可欠。非常に高価。

表:特殊用途向け高機能ゴムの比較 – HNBR(ニトリルの耐熱・耐久向上版)、ACM/AEM(高温油用、AEMは低温特性を改善)、FFKM(究極の耐熱・耐薬品ゴム)。

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