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  • 2026年9月3日
  • 更新日:2026年9月3日
  • シリコーンの耐油性は?評価方法と材料選定のポイント

シリコーンは耐熱性や耐寒性で語られることが多い材料です。ただし、一般的なシリコーンゴムは耐油性が高くないため、ガソリンや灯油、鉱物油などに触れると油を吸収して膨らみ(膨潤)、本来の強度を失うことがあります。

実際には、VMQ(メチルビニルシリコーンゴム)かFVMQ(フロロシリコーンゴム)か、対象の油が鉱油か燃料か、使用温度が常温か高温かなど、複数の条件によって評価が大きく変わります。

この記事では、シリコーンの耐油性の基本から、評価方法、実測データの読み方、そして耐油性が足りない場合の代替材質まで、材料選定の実務で使える形で解説します。

シリコーンの耐油性とは?

シリコーンは、主鎖がシロキサン結合(−Si−O−Si−)からなる有機ケイ素ポリマーです。シロキサン結合は、有機ポリマーの主鎖に多いC−C結合やC−O結合より結合エネルギーが大きく、200℃級でも高い化学安定性を示します。ジメチルシリコーンはらせん状で柔軟な主鎖と、表面エネルギーの低いメチル基を持つため、耐寒性・撥水性・離型性に優れています。ただし、油との相性は側鎖の設計に大きく左右されます。

シリコーンゴムの耐液性は、側鎖の違いで分類すると実務で扱いやすくなります。ASTM D1418系の略号では、MQはメチル基のみ、Vはビニル基、Pはフェニル基、Fはフッ素含有基を意味します。つまり「シリコーン」とひとくくりにするのは粗すぎ、少なくともVMQとFVMQは分けて考える必要があります。

シリコーンゴムは硬化条件によって、HTV(高温加硫型シリコーンゴム)と、RTV(室温硬化型シリコーンゴム)に大別されます。HTVはさらに、固形のHCR(ミラブルシリコーンゴム)と、液状のLSR(液状シリコーンゴム)に分かれます。LIMS(Liquid Injection Molding System=液状シリコーンゴム射出成形システム)は、LSRを精密射出成形するための成形システムを指し、材料区分そのものではありません。同じVMQ系でも、形態や架橋方式、後加硫の有無によって抽出成分や膨潤挙動は変わります。

耐油性を左右する最大の要因は、主鎖そのものよりも側鎖とネットワーク設計です。通常のVMQは、高温の鉱油ではある程度良好な結果を示す一方、ガソリンやトルエンなどの非極性炭化水素には膨潤しやすい性質があります。これに対しFVMQは、トリフルオロプロピル系側鎖を導入することで燃料油・鉱油への耐性を高めた材料です。機械特性はVMQに近い一方、熱風耐性はVMQより低下しやすい傾向があります。FVMQは、シリコーンの弱点を燃料・油の方向へ部分的に補正した材料であり、万能ではありません。

フェニル変性のPVMQ(フェニルビニルシリコーンゴム)は、低温特性や特殊用途で有効です。ただし、公開されている耐液データでは、ASTM No.3油やIRM903油に対する体積変化がVMQより大きい条件も見られます。フェニル化は耐油化の主手段ではなく、耐寒性や光学・特殊性能のための変更と理解したほうが、設計判断を誤りません。

耐油性の評価方法

耐油性の評価には、いくつかの公的規格があります。ここでは代表的な規格と、実務で押さえておきたい評価の考え方を解説します。

耐液性はJIS K6258・ISO1817・ASTM D471で評価する

耐油性評価の基礎規格は、日本ではJIS K6258「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-耐液性の求め方」、国際的にはISO1817、北米ではASTM D471が中心です。JIS K6258:2016はISO1817:2015をもとにした規格で、各種液体への浸せき前後の特性変化から耐液性を求める方法を規定しています。ASTM D471も、ゴム材料が液体の影響にどの程度耐えるかを比較評価するための基本試験法です。

体積・質量・硬さ・引張特性の変化を浸せき前後で比較する

液体がゴムに与える作用は、液体吸収、可溶成分の抽出、ゴムとの化学反応の3つに整理できます。評価対象は質量・体積・寸法変化、抽出物量、硬さ変化、引張応力−ひずみ特性の変化で、浸せき後だけでなく乾燥後も測る必要があります。膨潤が可逆か不可逆か、可塑化かネットワーク損傷かを見分けるうえで重要な工程です。

評価指標の意味も分けて読む必要があります。体積増加は主に液体吸収と相溶性を、質量変化は吸収と抽出の合成結果を示します。硬さ低下は可塑化や大きな膨潤を、硬さ上昇は抽出や後架橋を示すことがあります。引張強さや伸びの低下は、単なる膨潤だけでなく、フィラーとポリマーの界面損傷や架橋網の劣化を反映しやすい指標です。体積の膨れだけで材料の適合性を断定しないほうがよいのは、こうした理由からです。

試験液は基準油と燃料で使い分ける

試験液の選定も重要です。ASTM系ではIRM901/902/903が代表的な基準油で、ASTM D5964はこれらを旧ASTM No.1/2/3油の置換油として規定しています。燃料系ではASTM Reference Fuel A/B/Cが使われ、Fuel B・C・Dは大部分の市販ガソリンの膨潤挙動を模擬します。芳香族成分(トルエン)比率はB=30%、C=50%、D=60%の順で高くなり、比率が高いほど膨潤も大きくなる傾向があります。「耐油性」というときは、どの油を対象にしているかを明示しなければ意味が曖昧になります。

高温になるほど体積変化や物性低下が大きくなる

試験条件は規格に1つだけ固定されているわけではなく、液種・時間・温度を用途に応じて決めます。実務では23℃、70℃、100℃、125℃、150℃、177℃、200℃級の浸せき条件が広く使われており、同じ材料でも高温になると体積変化や物性低下が急増する例が多く見られます。VMQとFVMQの差も、常温より高温の燃料・油でより鮮明に現れます。

規格試験の結果は実部品性能と直結しない

規格試験は、試験がサービス条件をある程度模擬しても、実部品性能との直接相関を保証するものではないとされています。断面の小さいシールは大きいシールより膨潤しやすく、標準試験片と実部品では結果が変わることもあります。また、使用中の油は熱や汚染で性状が変わるため、新油だけでなく使用済みの油で試験することもあります。材料比較と部品の寿命評価は、同じ「耐油性」という言葉でも別の問題として扱う必要があります。

実測データと比較

公開されている実測データをまとめると、シリコーン系の耐油性にはある程度共通した傾向があります。

VMQとFVMQで燃料・油への耐性が大きく異なる

VMQは高温の鉱油にはある程度耐えるものの、燃料や芳香族成分では大きく膨潤しやすい傾向があります。FVMQはこの弱点を大きく改善しますが、FKM(フッ素ゴム)や一部のNBR(ニトリルゴム)・HNBR(水素化ニトリルゴム)と比べて常に最上位とは限りません。とくにVMQとFVMQの差は、ASTM No.3油やIRM903、Fuel Bなどの公開データで非常に明瞭です。

表1 代表的な公開実測値による耐油・耐燃料比較(体積変化率)

試験液と条件は完全には同一ではないため、厳密なランク表ではなくベンチマークとして読んでください。

材料熱油系ベンチマーク燃料系ベンチマーク実務上の読み方
VMQASTM No.3油 3日/150℃:+35%前後、IRM903 3日/150℃:+40%前後Fuel B 3日/65℃:+215%前後高温鉱油では使える場面がある一方、燃料・芳香族成分では大きく膨潤しやすい
FVMQASTM No.3油 3日/150℃:+5%前後、IRM903 150℃/168時間:+2〜3%Fuel B 3日/65℃:+15%前後VMQに対し、燃料・鉱油で膨潤を大きく抑えられる
NBR未指定配合によっては高温油でも良好だが、一般論としては配合依存が大きい
HNBR未指定高温・機械特性で有利なことが多いが、FKM/FVMQほど低膨潤ではない配合もある
FKM油・燃料の両面で非常に強い基準材料

条件が完全には揃っていないため、単純な材料名ランキングにはできません。ただし、VMQとFVMQの構造差が耐油性に与える影響、そしてFKMが比較基準として依然強いことは、この比較から十分読み取れます。

材料名だけでなく配合や温度の影響を考慮する

この比較から見える重要な点は2つあります。1つ目は、「シリコーンは耐油性が弱い」という一般論は、VMQを指すときには半分正しく、FVMQまで含めると不正確だということです。2つ目は、材料名より配合・温度・液種の影響が大きいということです。

たとえばNBRは一般に耐油ゴムとして知られますが、高温・特定の油・使用後の油・小断面シール・圧縮状態の組み合わせによって挙動が変わります。材料名だけで判断するのは危険です。

耐油性で選ぶシリコーンの代替材質

シリコーン(VMQ)の耐油性が用途に対して不十分な場合は、他のゴム材質への切り替えを検討します。ここでは代表的な代替材質の特徴を整理します。

NBRは価格と耐油性のバランスに優れる

NBRは、アクリロニトリルとブタジエンを重合した合成ゴムで、鉱物油や燃料油に対する耐性に優れています。連続使用温度の目安は100℃前後で、アクリロニトリルの含有量が多いほど耐油性は高くなりますが、その分柔軟性は低くなります。コストパフォーマンスに優れるため、オイルシールやホース、パッキンなど、標準的な耐油性が求められる用途で広く使われています。一方で、耐候性や耐オゾン性は高くなく、屋外で直射日光に当たる環境では劣化が進みやすい材質です。

HNBRはNBRより高温・機械特性で優れる

HNBRは、NBRの分子構造にあるブタジエンの二重結合を水素化した材質です。NBRと同等かやや劣る程度の耐油性を持つ一方、耐熱性や機械的強度、耐摩耗性、圧縮永久ひずみ性ではNBRを上回ります。連続使用温度の目安は120〜150℃程度で、高品質なグレードでは160℃以上の高温環境にも対応します。耐候性もNBRより優れているため、屋外や高負荷の環境で選ばれることがあります。ただし、耐寒性やコストの面ではNBRに劣ります。

FKMはゴム材質の中で最高レベルの耐油性を持つ

FKMは、ゴム材質の中でも最高レベルの耐熱性・耐油性・耐燃料油性を持つ材質です。連続使用温度の目安は250℃前後とされ、NBRの耐熱限界を超える高温の油や、攻撃性の強い添加剤を含む油の環境で選ばれます。ビニリデンフルオライドと六フッ化プロピレンで構成される2元系ポリマーのほか、耐油・耐燃料油性を改良した3元系ポリマーもあります。一方で、低温側の柔軟性やコストの面では他の材質に劣る傾向があります。

ACMとAEMは高温油に強いが燃料や芳香族には弱い

ACM(アクリルゴム)は、主鎖に二重結合を含まないため耐熱性・耐候性・耐オゾン性に優れ、フッ素ゴムやシリコーンに次ぐ性能を持ちます。側鎖のエステル結合が持つ極性により、潤滑油や燃料油にも優れた耐性を示します。連続使用温度の目安は150℃程度です。一方で、水やグリコール系のブレーキ液には弱く、耐寒性も改良品でようやく−40℃程度まで対応できる水準です。

AEM(エチレンアクリルゴム)は、ACMとFKMの中間的な性能バランスを持つ材質です。高温の鉱油や流体への耐性が高く、低温での柔軟性や機械的特性はACMより優れています。ただし、低アニリンオイルや極性溶剤への耐性は十分でなく、燃料系統やブレーキ系のグリコール系液、芳香族炭化水素にも弱いため、これらに触れる用途では避けたほうがよい材質です。オートマチックトランスミッションのシャフトリップシールや、ATミッションシール、パワーステアリングシール、オイルクーラーホースなど、自動車の耐熱油ゴム部品に使われています。

EPDMは耐候性に優れる一方で耐油性は低い

EPDM(エチレンプロピレンゴム)は、耐候性や耐薬品性、耐オゾン性に優れる一方、耐油性はシリコーンよりもさらに低い材質です。水道まわりのパッキンなど、油に触れない水系の用途では主流の材質ですが、油環境の代替材質としては選ばれません。耐油性が必要な場面でEPDMを選ぶと、早期の膨潤や劣化につながるため注意が必要です。

表3 代表的な代替材質の目安

材質連続使用温度の目安耐油性の傾向弱点
NBR約100℃鉱物油・燃料油に良好、コストに優れる耐候性・耐オゾン性が低い
HNBR約120〜150℃NBRと同等かやや劣る耐寒性・コストがNBRに劣る
FKM約250℃ゴム材質の中で最高レベル低温柔軟性・コストに課題
ACM約150℃潤滑油・燃料油に良好水・グリコール系液に弱い
AEM約150℃(短期175℃)高温の鉱油・流体に良好低アニリンオイル・芳香族・極性溶剤に弱い
EPDM約120〜150℃耐油性は低い油環境の代替材質としては不向き

耐油性だけでシリコーンの代替材質を選ぶなら、標準的な油環境ではNBR、より高温・高負荷の環境ではHNBR、最高レベルの耐油性が必要な場面ではFKMが有力な候補になります。ただし、耐熱性、耐寒性、機械的強度、コスト、規制適合など、耐油性以外の要件も踏まえたうえで、対象の油や使用温度に応じて個別に検証することが欠かせません。

シリコーンの耐油性についてニッシリに相談する

シリコーンの耐油性は、VMQかFVMQか、対象の油が鉱油か燃料か、常温か高温かによって大きく変わります。材料選定や試験計画に悩む場合は、シリコーン加工の専門知識を持つニッシリにご相談ください。

ニッシリでは、耐油性をはじめとしたシリコーンの特性を踏まえた加工提案や試作対応を行っています。用途に応じた配合や形状のご相談は、サービスページをご覧ください。

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