- 2026年9月3日
- 更新日:2026年9月3日
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シリコーンの耐熱温度は?種類別の目安と劣化メカニズム

シリコーンの部品や治具を高温環境で使うとき、多くの人が気にするのが耐熱温度です。しかしこの言葉は、カタログに載っている使用温度範囲だけでなく、連続使用できる時間や短時間だけ耐えられる温度、劣化の進み方まで含む幅の広い概念です。
この記事では、シリコーンの耐熱温度をどう読み解けばよいかを、耐熱性を支える化学構造から、種類別の温度目安、劣化のメカニズム、加硫方式による違い、使用環境ごとの注意点まで整理します。

シリコーンの耐熱温度とは?
シリコーンの耐熱温度は、単一の数値で決まる性質ではありません。実務上は、少なくとも五つの意味に分けて読む必要があります。
第一に、カタログに示される使用温度範囲です。第二に、数千〜数万時間にわたって連続使用しても物性を維持できる連続使用温度です。第三に、短時間だけ許容されるピーク温度です。第四に、熱重量測定(TGA)で観測される分解開始温度です。第五に、熱老化試験後の硬さや引張強さ、伸び、圧縮永久ひずみ(圧縮した状態から解放したときに、どれだけ元の形状に戻らないかを示す指標)などの変化から逆算した寿命温度です。
これらの数値は互いに一致しません。シリコーンゴムとしての化学的な分解が始まる温度と、シール材としての実用上の寿命が尽きる温度は、一般に大きく離れています。実際、一般的なシリコーンゴムは、150℃ではほとんど特性に変化がなく、200℃でも連続10,000時間以上に耐える例が知られています。短時間なら350℃に耐える製品もあります。これはシリコーンゴムの耐熱性の高さをよく示す数値ですが、この水準がすべてのグレードにそのまま当てはまるわけではなく、処方や加硫剤の選定によって耐熱性には差があります。
耐熱温度を検討する際は、乾熱・高温蒸気・燃料・強酸化性薬品・密封状態・厚肉部品のどれに当てはまるかによって、支配的な劣化機構が変わる点にも注意が必要です。VMQ(一般グレードのシリコーンゴム)、LSR(液状シリコーンゴム)、RTV(室温硬化型シリコーン)、FVMQ(フッ素シリコーンゴム)、熱安定化グレードでは、耐熱の意味そのものが異なります。まずは「どの温度で」「どの雰囲気で」「どの物性低下を寿命とみなすか」を定義することが、実務での第一歩になります。
シリコーンの耐熱性を支える化学構造
シリコーンゴムは、ポリジメチルシロキサンに代表されるポリシロキサン系エラストマーです。骨格はSi-O-Siのシロキサン結合が繰り返す構造で、側鎖にはメチル基やフェニル基、フルオロアルキル基などが入ります。シロキサン結合の結合エネルギーは106kcal/mol(約444kJ/mol)程度で、比較対象となる炭素同士の結合(85kcal/mol、約356kJ/mol程度)より大きく、非常に安定しています。この高い結合安定性と主鎖の高い可動性に加え、有機側鎖が骨格を覆って表面エネルギーを下げることが、シリコーン特有の耐熱性・耐寒性・耐候性につながっています。
一方で、シリコーンゴムは「高温に強い」の一言では片付けられません。乾熱中では極めて優れる一方、高温蒸気、燃料、強酸化性薬品、密封状態、厚肉部品では支配的な劣化機構が変わります。実務ではまず、どの温度・雰囲気・物性低下を寿命とみなすかを定義したうえで、材料の種類を検討する必要があります。
シリコーンの種類別に見る耐熱温度の目安
シリコーンゴムの耐熱性は、配合と形態によってかなり異なります。

グレードによって耐熱性の水準は異なる
一般的なシリコーンゴムは、150℃ではほとんど特性に変化がなく、200℃でも連続10,000時間以上の使用に耐え、短時間であれば350℃での使用が可能な製品もあります。ただし、同じ「一般用」グレードの中でも、処方や加硫剤の選定によって耐熱性には差があります。160〜260℃の範囲で比較すると、耐熱性を高めた専用グレードは一般グレードよりも明らかに長い時間、初期の破断伸びを維持できることが確認されています。
したがって、「シリコーンゴムは○○℃まで使える」と単一の数値で語るより、「どのグレードを、どの温度・時間条件で評価した数値か」を確認したうえで比較するほうが安全です。具体的な上限温度や耐用時間は製品ごとに大きく異なるため、候補材料を絞り込んだ段階でメーカーの技術資料や個別データを確認することをおすすめします。
LSR・RTV・FVMQは材料ごとの差が大きく、個別データの確認が必要
LSR(液状シリコーンゴム)、RTV(室温硬化型シリコーン)、FVMQ(フッ素シリコーンゴム)は、いずれも成形性や耐薬品性など固有の特長を持つ一方、耐熱性の水準は配合や硬化方式によって大きく異なります。特にRTVは硬化方式(縮合硬化・付加硬化)によって耐熱性や収縮率が変わり、FVMQは乾熱環境そのものよりも、油・燃料・溶剤を伴う高温環境で強みを発揮するとされています。
これらの材料について「何℃まで使えるか」を一律の数値で示すことは適切ではなく、実務では候補製品ごとにメーカーの技術資料やSDSで、使用温度範囲・連続使用温度・短時間ピーク温度を個別に確認することが必要です。
圧縮永久ひずみは温度変化に強い
性能指標として見落とされがちなのが圧縮永久ひずみです。シリコーンゴムの圧縮永久ひずみは−60℃〜+250℃という広い温度範囲にわたって安定しています。一般の有機系ゴムは室温付近では圧縮永久ひずみが小さいものの、温度変化により著しく増大する傾向があるのに対し、シリコーンゴムはこうした急激な悪化が起こりにくいとされています。シール材では、引張強さの維持より先に圧縮永久ひずみの悪化が寿命を決めることが少なくありません。
耐熱劣化のメカニズム
シリコーンゴムの熱劣化は、一つの機構だけでは説明できません。雰囲気や温度域によって、進み方がまったく異なります。
空気中では硬化方向、密封中では軟化方向に劣化する
低〜中温の空気中では熱酸化によって追加の架橋が進み、硬化や伸びの低下、圧縮永久ひずみの増大が起こります。表面の色変化を伴うこともあります。一方、密封条件下ではこれとは逆に、シロキサンポリマーの切断によって軟化する方向へ劣化が進み、空気中よりも耐熱寿命が短くなることがあります。
この密封条件下での軟化を防ぐため、シリコーンゴムの処方や加硫剤の選定、二次加硫などによって密封耐熱性を高めた製品も開発されています。ガスケットや厚肉シールのように酸素が届きにくい部位を設計する際は、「酸素があるから劣化する」と単純に考えるのではなく、密封状態特有の軟化リスクも踏まえて材料を選定する必要があります。
なお、シリコーンゴムの本格的な化学分解(主鎖切断や環状オリゴマーの生成を伴う分解)は、日常的な使用温度域よりもかなり高い温度域で議論されることが多く、TGAで観測される「分解開始温度」は、シール材としての実用上の寿命温度とは切り離して考える必要があります。
厚肉部品では拡散律速酸化(DLO)による不均一劣化が起こる
温度依存性も一様ではありません。フッ素シリコーンを対象にした研究では、温度域によって架橋反応が優勢になる場合と鎖切断の寄与が増える場合があることが示されており、熱老化を支配する機構は温度によって変わり得ます。酸素の拡散が制限される厚肉の材料では、表層と内部で劣化速度が分かれます。これが拡散律速酸化(DLO)で、表面だけが硬化・変色し、内部は比較的未劣化のままという不均一な劣化を生みます。高温データをアレニウスの関係式でそのまま低温側に外挿すると危険なのは、この機構変化とDLOが原因です。
色の変化は劣化の早期兆候として有用ですが、それ自体が寿命判定の基準になるわけではありません。設計上の判定は、色の変化だけでなく、硬さ、伸び、圧縮永久ひずみ、重量変化、揮発分の発生をあわせて見る必要があります。
加硫方式が耐熱性に与える影響
シリコーンゴムの耐熱性は、ポリマー骨格だけでなく、どの架橋方式で硬化させたかにも強く依存します。代表的な方式には、過酸化物加硫、付加反応型、縮合型があります。
付加硬化は圧縮永久ひずみが小さく、縮合硬化は収縮しやすい
縮合硬化品は一般に圧縮永久ひずみが高くなりやすく、付加硬化品のほうが良好な値を示しやすい傾向があります。縮合硬化のRTVは揮発性の副生成物を放出しながら硬化するため体積収縮が生じやすく、付加硬化のRTVは収縮が小さいとされています。この差は、高温下での寸法安定性やボイドの発生、揮発成分の管理に直結します。
ポストキュアで揮発分を減らし、硬化阻害物質を管理する
過酸化物加硫のHCRは古典的で汎用性が高く、高温用途でも広く使われていますが、多くの製品情報でポストキュア(硬化後にさらに加熱し、架橋を完結させて揮発成分を減らす二次的な加熱処理)が組み込まれています。プレスキュアの後にポストキュアを行って物性評価する例が多く、これは架橋の完結や副生成物の除去、圧縮永久ひずみ・揮発分の安定化に実用上重要です。低圧縮永久ひずみ性が求められる成形品では、こうした二次加硫が望ましいとされ、最適な加硫剤の選定も併せて必要になります。
付加硬化のLSRは副生成物を出さず、比較的短時間で硬化できる点が利点です。LSR部品のポストキュアは、引張特性や圧縮永久ひずみを改善し、揮発性成分や環状シロキサン(未反応のまま残る、輪の形をした低分子のシロキサン化合物)を低減する効果を持つ例が多く見られます。
一方で、付加硬化系は硬化阻害に敏感です。成形時にアミンや硫黄、有機リン、有機スズ化合物などが硬化阻害を起こす例が知られており、硫黄やアミノ基、可塑剤、ウレタン、有機金属化合物への感受性も指摘されています。硬化不良は未反応の低分子の残留やボイド、低強度、熱劣化の早期化につながります。耐熱設計では材料選定だけでなく、治具や離型剤、顔料、接着剤、プライマーまで管理対象に含めるべきです。
使用環境別の注意点
耐熱性は乾熱中だけの話ではありません。蒸気、油・燃料、紫外線、低温サイクルといった環境ごとに、注意点が変わります。
処方や加硫剤の選定が高温域での耐久性を左右する
一般的なVMQでも、高温空気中の性能は非常に強い部類に入ります。ただし、同じ「一般用」グレードでも、処方や加硫剤の選定によって高温側での耐久性には差があります。160〜260℃の範囲で比較すると、耐熱性を高めた専用グレードは一般グレードよりも明らかに長時間、初期物性を維持できることが確認されています。200℃を超える常用が見込まれる場合は、汎用グレードをそのまま使うのではなく、耐熱性を高めた専用グレードへの切り替えを検討する価値があります。
沸騰水に強くても加圧スチームには専用グレードが必要
シリコーンゴムは水に長時間浸漬しても、冷水・温水・沸騰水のいずれでも吸水量が1%程度にとどまり、機械的強度や電気特性への影響もほとんどありません。常圧下でスチームに接触した場合もほとんど劣化しませんが、加圧スチームの場合はスチームの圧力が増すほど影響が大きくなります。150℃以上の高圧スチームでは、シロキサンポリマーが切断され、ゴム物性が低下することが知られています。
この現象は、シリコーンゴムの処方や加硫剤の選定、二次加硫などによって改良することができ、耐スチーム性や耐熱水性を高めた専用グレードも数多く実用化されています。オートクレーブや炊飯器、蒸気ラインのような加圧スチーム環境で使う場合は、一般グレードではなく蒸気用グレードの選定が欠かせません。
燃料・油環境ではFVMQが第一候補になる
一般的なVMQは、有機ゴムの中でも高温での耐油性に優れていますが、ベンゼンやトルエン、ガソリンなどの非極性有機化合物には膨潤しやすい点に注意が必要です。フッ素シリコーン(FVMQ/F-LSR)は、こうした燃料・油・溶剤に対する耐性がVMQよりも高いことが知られています。燃料や油に触れる用途では、FVMQを候補の上位に置くのが合理的です。
低温・紫外線・オゾンへの耐性はシリコーンの強みになる
紫外線やオゾン、屋外暴露に対して、シリコーンゴムは非常に強い部類に入ります。コロナ放電で発生するオゾンは一般的な有機ゴムを急速に劣化させますが、シリコーンゴムにはほとんど影響しません。紫外線や風雨にさらされても、長期にわたって物性の変化がほとんど見られない例が多く報告されています。屋外の高温用途では、耐熱性より先にEPDMやCRよりシリコーンが優位に立つ場面が多く見られます。
低温側でも大きな利点があります。一般の有機系ゴムの脆化点が−20〜−30℃であるのに対し、シリコーンゴムは−60〜−70℃と、一般の有機系ゴムが脆くなる温度でも弾力を保ちます。製品によっては−100℃以下の極低温に耐える例もあります。ただし熱サイクルの設計では、低温性能そのものだけでなく、熱膨張差や圧縮永久ひずみ、接着界面の剥離をあわせて確認する必要があります。
シリコーンの耐熱設計をニッシリに相談する
シリコーンの耐熱設計は、グレード選定から加硫方式、ポストキュア条件、試験方法まで、多くの判断ポイントを含みます。自社だけで最適な仕様を詰め切るのが難しい場合は、シリコーン加工の専門知識を持つパートナーに相談するのも一つの方法です。ニッシリのシリコーン加工サービスでは、用途や使用環境に応じたグレード選定から加工まで、実務に即した相談ができます。

